第28回労使セミナー
平成25年1月17日(木)、道建労協の今年度最初の活動は、労使セミナー(於:ホテル ラングウッド)でした。第28回を迎えた今回は、人と組織のマネジメント研究所 株式会社道(タオ)の代表取締役を務めていらっしゃる河合太介先生にご講演いただきました。
初めに山下議長から、「震災の復旧・復興作業は我々道路建設産業に従事する者としての使命と考えるが、労働環境を整えなければ続かない。そのためにもワーク・ライフ・バランスの実現に向けた労使一体の推進が必要だ。このセミナーが人材の育成、職場のチーム力向上、働き甲斐のある職場環境を作る一助になってほしい」と挨拶がありました。
続いて河合先生の講演が始まりました。
テーマは、『「ニワトリを殺すな」~本田宗一郎に学ぶ社員を活かすマネジメント~』でした。まず引っかかるのは、なぜニワトリなのか。実はニワトリとは残酷な生き物らしく、群れの中の一羽がちょっと血を出していると、寄ってたかってその傷のところをつついて殺してしまうそうです。これを組織で言うなれば、何らかの失敗をし、傷を負ってしまった社員を更にみんなで追い込んでしまう、ということです。本田宗一郎氏は、社員の挑戦を大切にし、実践してきました。そして、挑戦をして失敗した社員を叩くような会議を「ニワトリ会議」と称して戒めました。これが「ニワトリを殺すな」の意味です。
本田宗一郎氏の歩みと、彼のキャラクターやホンダが開発した製品を見つつ、なぜ彼の会社の社員は活気に溢れていたのか、なぜ何度も壁を乗り越えてこられたのか、そのマネジメントについて河合先生の解説を受けながら学びました。
今社員や組織の活性化が言われておりますが、それは変化の速い現代社会の状況に打ち勝っていくため、組織力を上げていかなければいけないからです。そこで組織力の方程式、
「個人の力 × 個人間のつながり力」 が示されます。
まず、個人の力について、本田氏は「不常識に考えろ」と言いました。不常識とはなんでしょうか。スキーマ【さまざまな物事に対して「その人が無意識のうちにしてしまう、ある決まったものの見方、考え方」】、いわゆる固定観念を排したものの見方や考え方です。ここに面白い例題を出します。
「A君はお父さんとドライブに出かけました。しかし事故に遭い、お父さんは残念ながら亡くなり、A君は大けがをしました。救急車で病院へ運ばれたとき、待機していた外科医が驚いて言いました。「なぜ私の息子が!」。A君と外科医の関係は?」
というものです。すんなりと答えられた方はまだガチガチの頭では無いのかもしれません。なかなか答えが出てこない方、かなりスキーマにとらわれてしまっています。
閑話休題、本田氏はマネジメントとして不常識の先頭に立ち、不常識が生まれる組織を作り上げました。それは「ワイガヤ」の環境と言われるものです。ワイワイガヤガヤ話をしているところにいろいろな発見がある、というもので、これはスティーブ・ジョブズも同様のことを言っています。会議をしても、上司が殆ど一人で喋っている、報告事項が殆ど、決まった人の独り舞台、そのようなものは殆ど不常識な発想を生み出さない訳です。また、不常識な発想を生み出すために、気を付けなければいけないことがあります。ニワトリの例を出して、失敗した社員を殺せば(責めれば)、次にまたチャレンジしようとする気はなかなか起きない、ということと、だからと言って「任せる」という言葉で社員を飼い殺してはいけない、ということです。これは、「任せる」と言っておきながら、箸の上げ下げ、つまり事細かなことまで指示を与えたり、「任せる」ことが「放置」になって全くサポートがされない、ということを意味しています。これでは「任せ」られた方はモチベーションを落とし、殺されてしまう訳です。こういった意味の取り違えをしてはなりません。
個人間のつながり力について、つながりはやはりコミュニケーションであり、コミュニケーションとは、「役割的な関わり × 感情的な関わり」と示されます。これは効力感という言葉でも示されます。効力感とは、手ごたえやヨッシャ!と感じることの効果です。これがあると、素直に人の話が耳に入ってきます。入らない時は命令に聞こえます。手ごたえを感じれば頑張れます。負の連鎖として、命令だと気持ち(やる気・愛情)が入らない、効力感の欠如が生じれば、能動的貢献を放棄する、という事態が起こるそうです。そこで「感謝」というキーワードが出てきます。仕事だからやって当たり前、仕事の成果だから、ということではなく、彼や彼女がやってくれるから自分の仕事が出来る、だったら仲間のために、もっと自分の仕事をやろう、努力しよう、というものです。ここでの例として、サウスウェスト航空という会社の例を出していただきました。「午前3時のBBQパーティ」という話で、空港では目立たない整備の仕事をしている人達に感謝の気持ちを伝えるため、パイロットたちが整備の仕事が終わる午前3時まで待ってBBQパーティを開いた、という内容です。整備士たちがいつも良い仕事をしてくれるおかげでパイロットたちは安心してオペレート出来る、また整備士たちはこうしてパイロットたちが感謝してくれることを意気に感じて、自分たちの仕事を更にレベルアップする努力を惜しまないようになる、ということです。この会社は1973年以来毎年黒字で、離職率は5%以下、乗客死亡事故ゼロ、等々素晴らしい記録を持っています。
最後にもう一つ、本田氏が大切にしたこととして、「認知」があげられます。別の言葉で言うと、「得手に帆を上げて」で示すことが出来ます。これは、長所を褒める、ということです。何か一つでも個性=長所を褒めることで、皆がヒーロー、ヒロインとなり、毎日小さくても主役がいて、決して特定の人だけが褒められているのでは無い、これが元気な職場と言えます。これをある人は『「歩」が輝いている』と言いました。将棋を指される方ならピンとくるでしょう。将棋ではあるところで「歩」が「金」に変わります。
私たちも頭を柔らかくして不常識な発想を持ち、お互いを認め合って常に自分をアップロードさせていきたいものです。河合先生は講演の中で、「最近の若い奴は自分の意見が無い、と言いますが、それは言わないだけだ。言っても取り上げられなかったり、意見を求められもしない、ということから、言っても無駄だと思ってしまう。そうするともう思考停止に陥る」とおっしゃっていました。これは世代間のギャップ、ということで片付けられる問題ではありません。モチベーションは掛け算のように上がったり下がったりします。
講演のあとは、懇親会を開催しました。懇親会では三井住建道路株式会社の川島総務部長様に乾杯のご発声をいただき、労使和やかに歓談し、共通の課題克服に向けて果敢に取り組むことを改めて誓った次第です。
最後に、講演してくださいました河合先生、興味深い話ばかりでした。ありがとうございました。また、業務多忙の中この労使セミナーに参加いただきました企業の皆様、関係団体の皆様、建設産労懇の各組織の皆様、加盟単組の皆様、心より御礼申し上げます。
※A君と外科医の関係、わかりましたか?答えは、そうです、外科医はA君のお母さんです。